損失2800億円の片頭痛

損失2800億円の片頭痛

日本頭痛学会が行なった京都頭痛宣言では、片頭痛による経済的損失は年間2800億円になると試算されています。片頭痛がいかにつらくて生活に支障がある病気か、そして片頭痛の方がいかに「これが私のあたりまえ」と考えて適切な治療を受けずに我慢しながら生活しているか、よくわかる数字だと思います。

片頭痛は重症化すると仕事や家事に支障を来し、実際には患者数もかなり多いため、米国では年間の経済的損失は130億ドル(1兆5000億円)とも言われています。片頭痛の治療薬としてトリプタン製剤が2000年に発売開始され、それまで市販薬や一般的鎮痛薬で効果がなかった多くの片頭痛患者にとっての福音となりましたが、2021年に抗CGRP製剤(エムガルティ、アジョビ、アイモビーク)という画期的な予防注射薬が発売され、頭痛診療はさらに飛躍的に向上しています。

とはいえ、片頭痛が正しく診断されていないケースや、これが私の体質だからと諦めて頭痛外来を受診していないケースがまだまだ大変多く、いかに正しい情報を伝え、多くの患者さんたちを救えるかが頭痛外来の大きな役割となっています。

国際頭痛分類委員会による「片頭痛の診断基準」を一般の方が目にすることはないと思いますので、下に供覧しておきます。片頭痛が慢性化すると診断が難しくなってきます。少し難しい所があるかもしれませんが参考にして頂いて、少しでも当てはまると感じた方は、お近くの頭痛専門外来を受診されてはどうかと思います。片頭痛のポイントは「痛みの程度が大変強く、仕事や日常生活に支障が出ている事」と「そのような痛みが月に数日おこるけれども、それ以外の日は普通に生活できている」ということです。そして随伴症状として「吐き気や嘔吐」、「光や音に過敏になる」があればほぼ確実です。慢性化すると、普通に生活できる日がほぼなくなってきたり、市販の鎮痛薬を飲みすぎて薬物乱用頭痛になりますので、早く治療を開始する必要があります。

前兆のない片頭痛の診断基準

A. B~Dを満たす発作が5回以上ある

B. 頭痛発作の持続時間は4~72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)

C. 頭痛は以下の4つの特徴の少なくとも2項目を満たす

  1. 片側性
  2. 拍動性
  3. 中等度~重度の頭痛
  4. 日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける

D. 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす

  1. 悪心または嘔吐(あるいはその両方)
  2. 光過敏および音過敏

E. ほかに最適なICHD-3の診断がない

前兆のある片頭痛の診断基準

A. BおよびCを満たす発作が2回以上ある

B. 以下の完全可逆性前兆症状が1つ以上ある

  1. 視覚症状
  2. 感覚症状
  3. 言語症状
  4. 運動症状
  5. 脳幹症状
  6. 網膜症状

C. 以下の6つの特徴の少なくとも3項目を満たす

  1. 少なくとも1つの前兆症状は5分以上かけて徐々に進展する
  2. 2つ以上の前兆が引き続き生じる
  3. それぞれの前兆症状は5~60分持続する
  4. 少なくとも1つの前兆症状は片側性である
  5. 少なくとも1つの前兆症状は陽性症状である
  6. 前兆に伴って、あるいは前兆出現後60分以内に頭痛が発言する

D. ほかに最適なICHD-3の診断がない

日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳:国際頭痛分類第3版,医学書院,東京,2018

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