現在の日本は65歳以上の人口の割合が24%を越え、世界に類を見ないスピードで高齢化が進んでいます。疫学の定義では21%以上を超高齢化社会と呼ぶのだそうです。高齢化に伴い認知症患者も激増し、厚労省研究班のデータではその数は462万人とも言われています。これは65歳以上の15%にものぼり85歳以上になると25%という発症率です。実に大きな社会問題です。
認知症の代表疾患であるアルツハイマー型認知症の危険因子として生活習慣病がありますが、その中で何が一番危険と考えられているかというとそれは糖尿病です。糖尿病およびその予備軍は現在国内に2200万人いるとされており、糖尿病患者が認知症を引き起こす頻度は非糖尿病患者に比べて2倍から4倍高いとされています。日本が世界に誇る臨床疫学調査である九大の久山町研究では「食後血糖値の上昇が顕著な糖尿病患者は特に認知症になりやすい」ことが示されています。
動物実験でも確かめられています。マウス用のプールに作った水迷路のゴールに餌を置き、そこに泳いでたどりつけるよう実験用マウスを繰り返し教育します。この実験を正常マウスと糖尿病マウスで比べながら続けていくと、糖尿病マウスでは若年時から記憶障害、学習障害が出現して次第にうまく行えなくなり、目的を達成できなくなることが証明されているのです。アルツハイマー型認知症は「昔できていた事が徐々にできなくなる病気」ですから、糖尿病と認知症には深い関係がありそうです。
アルツハイマー型認知症では脳細胞にアミロイドベータ蛋白という毒性の強い物質が蓄積して細胞死を引き起こします。この物質は常に代謝分解されているので全てが蓄積するわけではないのですが、糖尿病ではこの代謝が低下しアミロイドベータ蛋白が沈着しやすくなっていると考えられています。また、糖尿病は動脈硬化の原因となり微小血管の循環不全を引き起こして細胞の加齢性変化を促進させることもわかっています。
アルツハイマー型認知症の誘因は多岐にわたりますが明確に証明されている原因はあまり多くありません。その中で糖尿病は科学的に証明された数少ない危険因子の一つなのです。