私たちの年代の医師が研修医だった頃、内科の教科書には収縮期血圧160以上、拡張期血圧90以上を高血圧とすると記載されていました。今から考えるとずいぶん甘い基準のように感じます。その後多くの研究により成人の降圧目標は135/85、高齢者で140/90となり、その努力の結果国内の脳出血の発症率は激減しました。
2009年のガイドラインがこの4月に改変されました。
そのポイントのいくつかを御紹介しましょう。
1. 高齢者の高血圧
高血圧が諸悪の根源であることは何も変わらないのですが、高齢者では急に血圧を下げるとかえって体調が悪くなる人がいるなど、高血圧治療は画一的にはいきません。そこで今回の改変では「75歳以上ではまず150/90未満を目標とする。しかし薬の副作用がなく他の病気との関係上差し支えがなければ積極的に140/90未満を目標とする」とされました。また糖尿病を同時に持っている人は130/80未満が理想なのですが、まずは150/90第一目標として設定し、問題がなければ130/80未満を目指す。という風に二段階コントロールになっているのが特徴です。
2. 糖尿病を合併した高血圧
上に書きましたように目標値は130/80未満とされました。実はこの基準はアメリカの基準140/80、ヨーロッパの基準140/85よりも厳格になっています。これは日本では脳卒中発症率が海外よりも高い事が反映されたものです。
3. 脳血管障害(脳卒中)を合併した高血圧
脳血管障害は種類も多くその時期もさまざまですので降圧目標は複雑です。140/90未満の目標値は変わりませんが、発症後の時間によって超急性期(24時間以内)、急性期(2週間以内)、亜急性期(3,4週間以内)、慢性期(1カ月以後)と以前より細かく分類され、その各期に応じた治療目標、望ましい薬の種類なども示されています。
4. 家庭内血圧の大切さ
今回の改定では家庭内血圧を重視しています。「病院と自宅での血圧が異なる場合は家庭血圧を優先する」と明記されました。また血圧測定を朝夜二回行う事は今までと同じですが、今回の改変では「朝2回、夜2回測定する方法が推奨される」ことになりました。実際の現場ではすでに2回か3回測定して平均を取るというやり方をしている方は多いですね。その臨床的な意味がきちんと証明され学会が推奨したというのも今回が初めてです。