新型うつ病の謎

新型うつ病の謎

脳神経外科のクリニックにはメンタルな問題をかかえた患者さんも訪れます。気持ちの持ち方、生活習慣についてのアドバイスや薬物治療によってすみやかによくなる軽いうつ状態の方もおられますし、すぐに専門の精神科の先生を紹介しなければいけないケースもあります。中には最近マスコミでも報道されるようになった「新型うつ病」が疑われるケースもあり、専門医でない医師にとってはとても対応に苦慮します。

従来型うつ病

従来型うつ病の診断はまず「日常生活で何をするにもおっくうな感じがしますか」という質問から始まります。何をやっても楽しくない、何に対しても興味がわかないという状態が2週間以上続いているかどうかがうつ病診断の入り口です。もしその様な精神状態であれば、食欲が落ち体重が減っていないか、不眠になっていないか(朝早く目が覚める、寝付きが悪い)、疲れやすくないか、いらいらしたり不安になったり感情が不安定ではないかなどの症状から全体的に診断してゆきます。うつ病の方は概して真面目で、自分を責めたり(自罰的)、自分に価値がないと考える(無価値感)傾向があります。頑張って仕事をしているのに将来すごい貧乏になってしまうのではないかと考えたり(貧困妄想)、実際には小さな失敗なのにとりかえしのつかない事をやってしまったという考えにとらわれること(罪責妄想)もあるのです。もちろん自殺の危険性も念頭においておかなければいけません。

新型うつ病

「新型うつ病」の患者さんも、やる気がおきない、気力がない、おっくうだ、身体の具合が悪いという不調で病院を訪れる点はよく似ています。しかし違っている点は自分を責めることは無く、自分の好きな事だけは十分やることができ、「自分はうつ病だと思います」と自ら宣言してくるような傾向がある事です。「自分には才能があるのに上司がそれを見抜けないために自分の力を発揮できずうつになった」という他罰的な訴えがみられるのです。性格は自己愛性格で、もともとあまり仕事熱心ではなく、やる気に乏しく、一生懸命仕事をしたという時期がないまま発症している点も大きく異なります。そのためこれを安易に「新型うつ病」としてうつ病の治療をするのではなく、適応障害やパーソナリティ障害の一型として対応すべきとの考え方が出てきています。

この二つの病態は車の故障と運転技術の未熟さに例えられます。

「従来型うつ病」は自動車自体の故障に例えられますので修理のためのドック入りが必要です。つまり休養と薬物療法で治っていきます。「新型うつ」は運転技術が未熟、つまり社会適応力の未熟さが原因ですので必要なのは休養でなく適応訓練というわけです。社会適応力を高めるためには自分自身の考え方や気持ちの持ち方を根本的に変えることが重要で、これはなかなか一筋縄ではいかない話かもしれません。

参考文献 染谷俊幸著 一般臨床医のためのうつ病診療他

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