脳は右半球と左半球に分かれていますので、当然の事ながら脳の病気はそのどちらか一方の半球に起こります。脳からの神経は延髄という場所で左右交差して下降しますので、右半球に脳梗塞や脳出血が起これば左半身の麻痺がおこり、左半球なら右の麻痺が起こります。その最も重症の型が半身不随ということになります。ですから手足の麻痺やしびれなどの症状が「片側」ではなく「両側」に起こってきた患者さんをみると、私たちは脳実質の病気はまず除外して考えます。神経学的に説明がつきにくいからです。
ギランバレ―症候群は風邪や下痢などの感染症の後、数日から数週間後に種々の神経症状を起こしてくる病気です。両足に力が入らず歩きにくくなる症状がまず起こり、その後左右対称性に上肢の脱力、顔面の麻痺、全身の麻痺へと進んでいきます。症状の程度はさまざまで通常は4週間以内に進行は止まりますが、中には嚥下困難や喀痰排出困難、呼吸筋麻痺などを併発する重症例もみられます。通常は進行が停止したのち2~4週間後から回復が始まり数カ月で治癒します。
この様な経過をたどる病気は症状が両側性ですので脳実質の病気でないことは明らかです。ギランバレ―症候群は上気道感染症、下痢などの原因となるウイルス(カンピロバクター)が引き起こす全身の末梢神経の病気で、自己免疫疾患一つに分類されています。末梢神経を構成する糖脂質という物質を免疫系が異物と認識してしまい、過剰な免疫反応で自らを攻撃し障害するのです。外来で疑われた場合は精密検査のために直ちに基幹病院の神経内科に入院していただくことになります。軽症のタイプでは特別な治療は必要なく数カ月で完治しますが、重症タイプでは急激に悪化し、呼吸筋麻痺、人工呼吸器装着となるケースもありますので、慎重な対応が必要な病気です。