認知症診療3つの命題

認知症診療3つの命題

福岡大学認知症センターの主導で行われた福岡市認知症研修会議が終わりました。コメディカルの方々も200人以上参加していただき、意義のある講演や多くの意見も出され、それぞれの立場からみなさんが認知症医療に取り組んでいる姿勢がよくわかりました。私は「認知症診療における3つの命題」と題して少しお話をさせてもらいました。

1.どこからが認知症?

認知症のレベルを調べるツールはたくさんあります。認知症スクリーニングには長谷川式スケールやMMSEが一般的です。重症度分類にはFAST分類やCDRがあります。ADL(日常生活活動)評価にはIADLが良く使われます。介護者が評価するツールではクリントン尺度が使いやすくよく用いられています。このようなツールを使うと認知症の診断は容易にできると考えがちです。けれども現実的には、物忘れは少ないけれどもトイレには自分でいけないとか、逆に物忘れはひどいけど何も困ったことはないという方もいます。大変細やかな介護をご家族に受けている人もいれば、一人暮らしの人もいます。時々ミスをしながらも周囲の理解により簡単な仕事を続けていて、それが生きがいになっている人もいます。それらを一緒くたにすることはできません。ツールや画像診断にとらわれず、ひとりひとりの症状と環境を丁寧に観察しながら適切な対処方法を考えることが大切なのだと思います。

2.「何でもアルツハイマー先生」になってない?

認知症で最も多いタイプはもちろんアルツハイマー型認知症です。その外にはレビー小体型認知症や前頭側頭葉型認知症、脳血管性認知症、進行性核上性麻痺,加齢に伴う認知症など様々なタイプがあります。診断困難なケースでは認知症センターへ受診して頂き、その結果アルツハイマー型認知症と診断されるとその時点での確定診断となります。ところが、その後フォローしていると「アルツハイマーらしさ」がなくなってゆく人がいます。アルツハイマー型認知症の方も年齢を重ねると、加齢性の要素が強まったり、老年性精神病を合併したり、様子は徐々に変わってきます。これをずっと単なるアルツハイマー型認知症と診断し続けていると「何でもアルツハイマー先生」になってしまいます。認知症医療はなかなかに辛抱強さが必要で、診断名にとらわれず、個人個人の変化を丁寧に見てゆくことが肝要です。

3.患者さんや介護者への最善の言葉とは?

いくら考えても答えの出ない究極の命題です。気落ちしている患者さんには「物忘れなんて誰にでもあるんですから、気にしないで今まで通りの生活を続けましょう」、「たまに薬を飲み忘れることくらいたいしたことないですよ」。無理やり連れてこられたと憤慨している人には「今日は、来てくれてほんとによかったですよ、いい時期に連れてきてくれた娘さんに感謝ですね」などと声をかけます。ご家族には、ありがとうと言ってもらえない介護の大変さをねぎらうように声かけをします。けれども、それが本当に伝わっているのかはわかりません。

認知症医療に最も大切なものは想像力です。自分はボケてないと言い張っていてもおそらく患者さんは「昔の自分からどんどん離れてゆく怖さ」をどこかで感じているのではないでしょうか。ご家族は「大好きだった母を、尊敬していた父を、嫌いになってしまいそうな怖さ」をいつも内包しているのではないでしょうか。この命題に答えはありませんが、そんな想像力を働かせながら最善の言葉探しをしてゆきたいものです。

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