「フレイル」という言葉が近年盛んに使われています。簡単にまとめると、「加齢とともに身体的、精神心理学的に虚弱になってはいるが、自立性は保たれていて、要介護状態にはなっていない状態」という事になります。英語のfrailtyという言葉は、「虚弱」「老衰」と訳されてきましたが、これは不可逆的な印象を与え健康増進に向かうイメージに合わないため、2014年日本老年医学会は「フレイル」と呼ぶことに決めました。これに見合う適当な日本語がなかったということでしょう。
なぜ老化はおこる?
老化現象は生物なら当たり前のことですが、その説明は簡単ではありません。私たちは傷の治りが遅い、体のあちこちが痛い、疲れやすくなった、そんなときに老化を実感します。これは、人間を構成している37兆個の細胞一個一個が退化し、エネルギーを産生しにくくなるという細胞老化の集大成の結果なのです。個々の細胞は人間の代謝、免疫、循環器、知能など多くの機能に係わっていますので、皮膚の再生能力の低下、活動性や筋力の低下、動作の緩慢性、記憶力低下などは必然的に起こってきます。人間の身体機能を最もよい状態に保とうとする機能(ホメオスタシス)も当然低下してきます。そしてこのような状態が健康障害にまで至ると「フレイル」と呼ばれる状態になるのです。
フレイルの多面性
フレイルは身体的フレイルと精神心理的フレイル、さらに社会的フレイルに分類されます。身体的フレイルの最も重いレベルは「筋肉量が減少して身体機能低下が進んでいる状態」で、これは「サルコペニア」と呼ばれます。訪問リハや訪問看護などの利用を促して一人暮らしの方たちがこの状態に陥らないようにケアしていかなくてはいけません。
精神的フレイルの定義は決まっていませんが、認知機能の低下や抑うつ状態など、要介護状態に進行しやすい状態と考えられます。独居の高齢者が増えている現状では、不安障害、適応障害、軽度認知障害なども今後含まれてくるのではないかと思います。ケアにも多面的な知識と対応が求められています。
日本版のフレイル評価基準
下図のように日本で作成されたフレイル評価表では、体重減少、筋力低下、疲労感、歩行速度、身体活動の5項目中3点以上で「フレイル」、1~2点で「プレフレイル(前フレイル状態)」と診断することになっています。これを参考にすることで、患者さんの生活力がどの程度保たれているかを評価することができます。この診断基準にはまだ世界統一基準はありませんので、今後の研究で国際的コンセンサスが得られてくるのだろうと思います。
項目 | 評価基準 |
---|---|
1.体重減少 | 6ヶ月で2kg以上の体重減少 体重減少があれば1、なければ0 |
2.筋肉低下 | 握力:男性<28kg 女性<18kg 握力低下があれば1、なければ0 |
3.疲労感 | (ここ2週間)わけもなく疲れたような感じがする 持続する疲労感があれば1、なければ0 |
4.歩行速度 | 通常歩行速度<1.0m/秒 歩行速度低下があれば1、なければ0 |
5.身体活動 | ①軽い運動・体操をしていますか? ②定期的な運動・スポーツをしていますか? 上記の2つのいずれも「していない」と回答すれば1、それ以外は0 |
【判定基準】3点以上でフレイル、1-2点はプレフレイル