神経細胞内にアミロイドベータという神経毒物質が蓄積して神経細胞を破綻させていく。これがアルツハイマー型認知症の原因であることは良く知られています。最近使用され始めた2つの新薬、レカネマブ(商品名レケンビ)、ドナネマブ(商品名ケサンラ)はそのアミロイドベータを直接叩いて減らしてやろうという画期的な薬です。ただし、症状が改善することまではなかなか期待できず、「症状の軽い人に使って進行しないようにしていこう」というレベルの薬と考えておいてよいと思います。
その2者の薬を使用できるかどうかは、アルツハイマー型認知症の早期発見にかかっています。現在はMCI(軽度認知障害)か「程度の軽いアルツハイマー型認知症」だけに使用可能となっていて、その判断には基幹病院でアミロイドPETや髄液検査をして適応を決めることになっています。
それらの検査は大きな設備が必要だったり、患者さんに身体的負担をかけるのでどれも簡単ではありません。当面の目標は血液検査でそれがわかるようになることです。国内の研究チームは血漿中のアミロイドベータを質量分析装置(島津製作所)で調べる技術と血中「スレオニン217リン酸化タウリン」を検出する装置を使って新たな診断法を編み出そうとしています。「スレオニンリン酸化タウリン」はアルツハイマーを早期診断できる物質として注目されています。
これらの検査を用いてPET検査に近いほど「1」に近づく解析をすると、血中アミロイドベータの検査は「0.85」、スレオニンは「0.91」、両者を組み合わせるとMCIで「0.995」という結果が得られています。またレカネマブが効くと値が下がることも証明されていますので、数年後には一般の臨床でも使えるかもしれない精度の高い検査法です。