国内の認知症統計では、その半数がアルツハイマー型認知症で、それ以外に幻視やパーキンソン症候群を伴うレビー小体型認知症、脳梗塞などによる血管性認知症、万引きなど反道徳的行為を繰り返す前頭側頭型認知症などが知られています。この4つの認知症に関しては多くの研究が進められていて、診断基準もかなりきっちりしたものが出来上がっていると言えるでしょう。嗜銀顆粒性認知症は最近よく耳にする認知症ですが、まだ診断基準が明確でないということもあり、診断される機会が少ない認知症です。しかし、認知症ガイドラインでは全体の5%から9%はあると記載されており、最前線で診ていましても、特に80歳以上の高齢者では決して珍しくないと感じています。
嗜銀顆粒
嗜銀顆粒とは脳細胞の中に出現する異常物質の事で、脳細胞を銀染色という染色法で染めて顕微鏡で観察すると紡錘上の顆粒が染まって見えるので嗜銀顆粒と名付けられました。ドイツの神経病理学者がこの発見をしたのが1987年ですので比較的新しい概念だという事がいえるでしょう。
症状の特徴
この病気の特徴は、記憶障害と人格障害です。
この二つはもちろんアルツハイマー型認知症でもみられるのですが、嗜銀顆粒性認知症では物忘れが軽度で日常生活が十分行えるようなレベルでも性格変化が強く現れるという特徴があります。一概には言えませんが、最近マスメディアでも取り上げられている「キレやすい老人」の中にはこのような病気の方が混じっている可能性があります。ささいなことで怒りやすくなる、興奮しやすくなる、非常に頑固になって意見を変えない、人の意見を訊こうとしない、嫉妬妄想、暴力的になるなどの性格変化が主体の認知症です。
アルツハイマー型認知症では、記憶障害、時間がわからない、場所がわからない、家族の話について行けないなどの症状が進んだのちに徐々に性格変化が起こってきますので、かなり異なる印象を持ちます。
また、嗜銀顆粒性認知症は、アルツハイマー型認知症よりも高齢で発症することが多く、記銘力障害の進行もゆっくりとしています。発症も遅く、進行も遅いのです。80歳以上で発症し、自立はできているが、頑固で自分勝手で怒りっぽくて対応が難しいとご家族が困っておられたらまず疑う必要がある病気です。画像診断では海馬の萎縮が左右非対称であることが特徴ですので、診断の大きな助けになります。
嗜銀顆粒性認知症の確定診断と治療
この病気は脳細胞を顕微鏡で調べてその特徴で最終診断される病気ですので、生きているうちに確定診断はできないわけです。ですから臨床症状と画像で診断し、悪化を防ぐような対応を個別に行っていく、まさにテイラーメイドの対応が必要になります。怒り、興奮性、易刺激性というものは周囲に対しても本人にとってもプラスにはなりませんので、精神科の医師と相談して薬剤調整を行なうなど、生活しやすくしてあげることも大切な対策です。