心房細動が重症の脳梗塞を引き起こすことはよく知られています。過去にも小渕元総理大臣や長嶋茂雄氏などの著名人がこの病気に罹患しています。心臓内にできた血栓が脳血管に飛んでいき脳梗塞を起こすわけですから心房細動を治療することが最も重要なのですが、それは容易ではありません。そこで血液凝固を予防する抗凝固薬ワルファリンの出番です。
ワルファリン(ワーファリン®)って何?
ワルファリンは1962年(昭和37年)に日本に導入された古い薬です。50年以上もこんなに高頻度に使い続けられている薬は国内にも数えるほどしかありません。それほど大切な薬剤であり続けたのです。専門的にはワルファリンはビタミンK依存性凝固因子産生を抑制します。要するに人間の血液を固めるためにはビタミンKが必要なので、それを抑えることで血液をサラサラにしましょうという薬です。1980年以降、世界各国で行なわれた大規模臨床試験で心房細動患者の脳梗塞予防にワルファリンが絶大な効果が得られる事が証明され、現在に至っているのです。
ワルファリンの弱点1
どんな人にも弱点があるようにそんな大御所ワルファリンにも弱点があります。まずビタミンKのたくさん含まれている食物が制限されるということです。薬の効果が弱まってしまうからです。納豆、クロレラ、青汁は完全に御法度。緑黄色野菜は少々。と言われていますが下記の表を見ると意外と多くの食品にビタミンKが含まれていることがわかります。薬によって毎日の食事が制限されるのはとても不自由なことです。
ワルファリンの弱点2
ワルファリンは同じ量を内服してもその効き目には個体差が大きい薬です。その人の遺伝子、体重、性別、年齢、腎機能、肝機能など多くの要素で変化します。また同じ量を飲んでいてもその効果は一定しない薬なのです。そこでPT-INRという指標を用います。この値が高くなると効き目が強くなる反面、大出血などの副作用が増加します。低すぎるとワルファリンの効果がなくなってしまいます。そこで日本では70歳未満では2.0~3.0。70歳以上では1.6~2.6の範囲で管理されるのが一般的です。ワルファリンにはひと月かふた月に一度PT-INRをチェックしなければいけないという煩雑さがつきまとうのです。
新しい抗凝固剤(NOAC)の特徴
新たに開発された新規経口抗凝固剤のグループはNOACと呼ばれています。NOACの特徴はワルファリンの弱点を大きく改善したものです。ビタミンKには関わらない薬ですので今まで悩まされた食事の問題もフリーですし、PT-INRの採血も不要です。また副作用で最も重大な脳出血、消化管出血の頻度も減少しています。その頻度が半数近くに減ったと言うデータもあります(J ROCKET AF)。しかしワルファリンを内服している方をNOACに変更する上でネックになるのはその薬剤費の高さです。下の表にまとめましたが最大で10倍近い負担額差になるのです。今着ているコートでも十分暖かいのに10倍もする高価なコートをお勧めするにはそれ相応の理由が必要でしょう。患者さんに両者の長所、短所を説明し、話し合いながら選択しているのが臨床最前線の実情です。