心と脳の関係を探るには機能的MRIという特殊な装置を使います。どんな気分の時、脳のどの部分が活性化されているかを見る事ができます。ロンドン大学キングスカレッジでは16歳から35歳の平均的な体格の女性18人に、美しいモデルさんの写真を見せてその実験を行いました。その結果、脳内の「前帯状皮質」、「扁桃体」という部分が強く活動している事がわかりました。元々これらの部位は人間が「不安」の時に活性化される場所として知られています。他人と自分を比較して生じる感情は「嫉妬」や「劣等感」で、「不安」とは違うものなのですが、脳活動のデータでは共通した部分が活動している。これは大変興味深い結果と言えるでしょう。
さて今度は日本の放射線医学研究所の実験です。平均22歳の男女19人に「かつての同窓生が社会的に成功し、羨ましい生活を送っているところ」を想像してもらいながらMRI検査を受けてもらいます。そうするとここでも「前帯状皮質」が強く活動することがわかりました。やはり「嫉妬」と「不安」は脳科学的には近い感情なのです。
次に「一旦成功した彼らが不慮の事故やパートナーの浮気で不幸に陥った状態」を想像してもらいます。すると「前帯状皮質」の活動は停止し、代わりに「側坐核」が活動を開始します。「側坐核」はもともと「快感を生み出す報酬系」と呼ばれる脳の部位です。やはり他人の不幸は蜜の味だったのです。そして何より興味深いのは「前帯状皮質」の反応が強かった人ほど「側坐核」の活動が強かった事でした。
これらの実験は私たちが日常生活していて何となく感じていることを脳科学的に解明した研究といえるでしょう。どんなに表面的に取り繕っていても脳の活動を変えることはできない。これは残酷な結果のようでもありますが、けれども人間とは所詮そういう生き物なんだと割り切った上で自分の感情や他人の行動を見る事ができれば、少しだけ気が楽になるかもしれません。
参考文献 池谷裕二「進化し過ぎた脳」他