いったいどんな病気なのか、さっぱり正体がわからなかった病気「慢性疲労症候群」も徐々に解明が進んできました。慢性疲労症候群(CFS)はこれまで健康に生活していた人が急に原因不明の激しい全身倦怠感に襲われ、その後強い疲労感と共に、微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、思考力の障害、抑うつ状態などの精神症状が半年以上続き、健全な社会生活が送れなくなる病気です。CFS患者の四分の一は長期にわたりほとんど回復が見られず、日中も臥床して生活し、生活保護受給者になるケースも多いとされています。この病気は健常者に見られる慢性疲労(疲れが溜まっているが、通常の日常生活や社会生活は可能な状態)とは全く違う病態です。病名に「疲労」という誰もが日常で経験している症状がついていて誤解や偏見を受ける可能性があるので、現在は「筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群」という病名で呼ぶことになっています。
おもな症状
1.微熱・頭痛・のどの痛み
解熱鎮痛剤に反応しない微熱が長く続きます。風邪をひいたときの様な頭痛やのどの痛みが続きます。
2.強い疲労感
日常生活ができないほどの強い疲労感が出現します。仕事や育児など原因がはっきりしていて通常の生活が営めている場合は「慢性疲労」ですのでこの病気とは全く違います。
3.激しい筋肉痛
全身や一部の筋肉に激しい運動をしたあとのような筋肉痛が現われ、動くこともできなくなります。
4.不眠
寝つきの悪さや中途覚醒、昼間の眠気など睡眠が障害されます。自律神経障害と言われています。
5.種々の精神症状
うつ状態が持続します。気分の落ち込み、意欲低下により仕事ができなくなり退職を余儀なくされる事もあります。注意力や集中力、記銘力障害なども出現し、若年性認知症との区別が難しいこともあります。
筋痛性脳脊髄炎 / 慢性疲労症候群の原因
何らかの感染症や環境的なストレス(過重労働、精神的ストレス、紫外線、化学物質などなど)をきっかけに神経系、内分泌系、免疫系の働きに異常をきたすと、免疫力が低下して体内に潜伏していたウイルスが再活性化されます。このウイルスを抑え込むために体内ではサイトカインと呼ばれる免疫物質が産生されるのですが、これが脳に炎症を起こして脳機能障害を引き起こします。特殊なPET検査によって、視床、中脳、扁桃体に炎症が強いケースでは認知機能障害が強く、帯状回、視床では痛み、海馬では抑うつ症状が強く出るという相関関係が判明しています。つまりこの病気は強いストレスに曝されて免疫力が低下し、脳のあちらこちらに炎症が引き起こされて多彩な臨床症状をきたす、実に複雑で治療困難な脳の病気だという事がわかってきたのです。米国でも今後5年以内に科学的根拠に基づく新たな診断基準を作成する計画になっています。