世界的にみても心電図を検診の一つに加えている国はほとんどなく、日本、イタリア、キューバくらいだと言われています。その理由は心電図異常が高血圧や高脂血症の方に出やすいことはわかっているものの、心電図所見が個々の心血管の病気に影響を与えることはあまりなく、臨床上ほとんど問題にならないからです。米国心臓協会では糖尿病患者や高齢者など高リスク集団だけを心電図検査が必要なグループとしています。慶應大学循環器内科の香坂 俊先生は「心電図に異常波形がある」といわれただけで特に心配する必要はないが次の3つのケースでは専門医の受診が必要だと述べています。脳神経外科の立場から解説したいと思います。
1. 脳梗塞を起こすかもしれない不整脈
心房細動は心電図異常の中でもっとも有名な不整脈です。心房細動では心房の収縮活動が極端に低下、または停止していますので血流が停滞して血栓ができやすくなり、それが脳血管に飛んで脳梗塞を起こします。アジア人は欧米人よりその頻度が高いため心房細動発見の意義は高いといえます。心房細動が引き起こす脳梗塞は重篤なケースが多いため、確定診断をされるとその後長期にわたり抗凝固剤の内服が必要になります。けれども不必要な抗凝固療法は避けなければいけませんので、心房細動の診断には慎重さが求められます。最近は心電図自動解析装置の精度も上がっていますがそれでも中には偽陽性が含まれていますので、私は一度循環器専門医の意見を聞いてから治療を開始するようにしています。
2. 突然死を引き起こすかもしれない不整脈
ブルガダ型心電図。私たち脳外科医には聞き慣れない名称ですが、循環器内科の世界ではこのような分類の異常心電図は若者の突然死を起こすリスクが高いと言われています。ただしこのような診断を受けても胸痛などの臨床症状や家族歴などを総合的に判断する必要があり、一概には言えないようです。24時間心電図施行中に突然死した症例を検討するとその直前に致死的心電図が記録されています。約3/4は心室細動などの心室系不整脈、約1/4は徐脈性不整脈で、その多くに心筋梗塞などの既往があります。生活習慣病の予防がいかに大切かがわかります。
3. 異常所見が複数ある心電図
健診で心電図をとると右脚、左脚ブロック、上室性期外収縮、左、右軸偏位、ST-T変化、PR延長、時計、反時計回転、心室肥大など様々な異常を指摘されることになります。最近の研究では、これらの異常がひとつだけ見られた場合は特に心配ないけれども、複数重なって見られる場合は将来心血管の病気になりやすい事がわかってきています。心電図検査を行ってもすべてが心配というわけではありませんが、危険な不整脈や複数の異常が重なってみられた場合は精密検査を考慮すべきなのです。