今、子供たちの周りにはありとあらゆるおもちゃが氾濫しています。わが子の成長を願って親が買い求めてきた知育玩具。これってホントに役に立つシロモノなんでしょうか。
その1音楽
親の不安と希望を標的にした製品は妊娠中から始まります。「わが子の素晴らしい人生への第一歩は音楽から」なんて言われると何だかそんな気になりますよね。妊婦の腹部に巻き付けて音楽を再生するスピーカー付き腹巻は以前から売られていますが、「ベイビーポット」というアメリカの製品を調べてみるとこれは驚愕でした。何と妊婦の膣内に電球型シリコン製スピーカーを入れて音楽を聴かせるのです。うるさくないのでしょうか。「音楽は言語能力やコミュニケーションを司る脳回路を刺激します。子宮の中で始めることが重要なのです」といった様な事がトリセツに書かれています。けれどもそんなに頑張っても妊娠中の音楽が子どもの音感や知的発達にプラスになるという学術的証拠は全くないのです。音楽は人生を豊かにする。この当たり前の事実が、あたかも胎児にも役立つかのように宣伝されているのです。
その2言語
次は言語です。いちはやく言葉を覚えた子供は賢い子のように思われがちです。そのためのアプリや玩具は枚挙にいとまがありません。しかし残念ながら乳幼児が読字を人より早く覚えることができても「長期的な強みにはならない」ことは科学的に証明されています。最も影響を与えるのは「環境」です。親との会話の数です。家族から十分に話しかけられないような環境では言語の遅れや長期的な学力低下につながります。もちろん、虐待、栄養不足、貧困などの問題があれば大きなマイナスになるでしょう。知育アプリは悪いものではないのですが、刺激が多ければ多いほど良いわけではなく、親との豊かなコミュニケーションが基本になければ意味がないのです。
アメリカには有名な知育玩具訴訟事件があります。「your baby can read」という製品は、DVD、book、cardで構成された製品なのですが、「これを使った赤ちゃんは幼稚園でハリーポッターを読めるようになる」という過大広告を出し訴訟が起こったのです。会社は連邦取引委員会に80万ドル払って和解しましたが、この会社は現在も「your baby can learn」という別の類似商品を出しています(笑)。懲りてません。
その3算数
算数はどうでしょうか。自分の子供が3歳にして計算ができると、将来有望だとつい考えてしまうかもしれません。小児期以降の算数学習が、認知能力向上や日常の問題解決スキルに重要だということは証明されているので、わが子を幼年期から算数の達人にしたいと考える親ももちろんいるでしょう。数か月にわたって算数教材を使うと確かにどんどん吸収し計算ができるようになるのですが、ある研究では、簡単な足し算が素早くできる3歳から5歳の子供たちは、実は「数の原理を理解しているわけではなく、正解を出すコツを知っているだけ」、「長期的な能力の向上にも無関係であった」という研究成果が出されています。
その4まとめ
- 知育玩具には乳幼児の読字や算数の能力向上をうたったものが多いのですが、科学的裏づけはほとんどありません。(コミュニケーションツールとして使いましょう)
- 赤ちゃんが他の子より早い時期に進歩を見せても長期的にはたいして変わりません。
(じじばばが勝手に喜ぶのは自由) - 何かを選んで買う時は、親のあなたがそれで遊びたいと思う玩具を選ぶべきです。
乳幼児にとって一番大切な教育とは、何といっても楽しみながら親と一緒に過ごす時間なのですから。
参考文献 Can you supercharge your baby? (Scientific American , June2018)他