抗認知症薬を保険適応から外したフランス事情

抗認知症薬を保険適応から外したフランス事情

フランスの医療保険制度はシビアです。ある薬が一旦保険適応になっても発売後にその効果が低いと判定されると徐々に保険でカバーされる割合が低くなります。7年前に抗認知症薬もその割合がかなり引き下げられていましたが、今回ついに保険適応から完全に外されることになったのです。

フランス保健省が決定した対象薬は4種のアルツハイマー型認知症薬、アリセプト、レミニール、イクセロン(リバスタッチ)、メマリーです。アメリカ、日本をはじめとする各国でこれらの薬は「病気自体を治したり食い止める効果はないが、進行を遅らせる効果がある」と認定されていますので、この決定が他国にすぐに影響を及ぼすことはなさそうですが、アメリカのガイドラインにも「効果は控えめ」と書かれていますので、これらの薬を処方する時は医師の説明義務と患者家族の理解が益々大切になると思います。

フランス保健省は

  1. これらの薬を使っても病気の重症化を抑えられない
  2. 日々の生活の質をあげることはできない
  3. 施設への入居時期を遅らせることはできない

と判断。一方で吐き気や食欲不振、下痢、めまいなどの副作用は無視できないということで今回の決定になったようです。

今回の決定は私たち日本の臨床医にも少なからずインパクトを与えましたが、考えるべきは日本の薬づけ医療へ反省と非薬物治療の重要性の見直しかと思います。日本の抗認知症薬の処方量はオーストラリアの5倍、1500億円だそうです。副作用の出やすい85歳以上への処方がその半分ということですので、その適応をもっと絞る事を考えるべきなのかもしれません。フランスでは認知症に対する非薬物治療の研究が進んでいますが日本では安易に薬を処方する習慣があります。

薬はあくまで認知症治療の一つの手段と位置づけ、認知症患者を包む社会の環境や周囲の対応をどう変えていくのか、考えるべきことはたくさんありそうです。

関連記事

  1. 【健脳作戦】認知症にならない脳を作ろう

    【健脳作戦】認知症にならない脳を作ろう

  2. ライフスタイルと認知症

    ライフスタイルと認知症

  3. 脳外科的に治療できる認知症

    脳外科的に治療できる認知症

  4. おだやかアルツハイマー

    アルツハイマー型認知症の新分類(「個人的な体験」から)

  5. 認知症とは無関係:ど忘れの仕組み

    認知症とは無関係:ど忘れの仕組み

  6. 転びやすく骨折しやすい認知症

    転びやすく骨折しやすい認知症

ピックアップ記事

  1. 子供が頭を打った(頭部打撲)時の確認手順
  2. スポーツ顔面外傷の注意点
頭痛関連記事
最近の記事 よく読まれている記事
  1. 新しい認知症治療薬「レケンビ(レカネマブ)」Q&A
  2. さまざまな失神
  3. 中高年の理想的なダイエット
  4. 持続性知覚性姿勢誘発性めまい
  5. 鎮痛剤の使い過ぎによる頭痛(頭痛外来でまずは正しい診断を)
  1. 子供の「ぶよぶよたんこぶ」と「固いたんこぶ」いつ治る?
  2. 頭部打撲による「外傷性髄液漏」とは
  3. 片頭痛にめまいが合併する「前庭性片頭痛」
  4. 子供(乳幼児)の頭部打撲:ぶよぶよたんこぶの対処法
  5. 子供が頭を打った(頭部打撲)時の確認手順
PAGE TOP