「報酬」とは何でしょうか。仕事を頑張った時に貰える御褒美。まず思いつくのがそんなイメージではないでしょうか。しかし辞書を引くと「労力に対して与えられる金品」としか書かれていないので、労力の中身とは無関係のようです。脳の中には報酬系という神経回路が備わっています。この報酬系に関わっている神経伝達物質がドーパミンです。ドーパミンは生存に適した条件が満たされた時に放出され、気持ち良さや幸福感をもたらします。それによって動物は生命を維持するための最適な行動をとるように促されます。快感は報酬なのです。
動物が生存するために不可欠な回路なのですが良い事ばかりではありません。報酬系は下等動物にもありますが、人間は彼らと違い気持ち良さを記憶しています。そのため一旦快感を知ってしまうと人は報酬系がさらに強く刺激される体験を求めるようになります。これがギャンブル依存の始まりです。ギャンブルはリスクを伴うもの。誰にもわかっているのですが、リスクを伴うと人間の報酬系は一層強く刺激されるらしいのです。報酬系を刺激する術を知ってしまうとやがて誘惑に抵抗できなくなり、快感を得るためその行動に埋没してゆきます。そこからは快感と渇望のアリ地獄です。
2016年にカジノ法案が衆議院を通り政府は2020年東京オリンピックまでには公営カジノを開始する勢いです。同じ賭博なのに公的に経営すれば合法でそれ以外は違法になるのが何故なのか門外漢の私にはわかりませんが、どちらにしても人間に対する影響は同じです。現在、精神科学の分野ではギャンブル依存症ではなくギャンブル障害という言葉が使われていて、「嗜癖」という病気の一つに分類されています。嗜癖とは危険ドラッグ依存、覚醒剤依存と並ぶ非常に重症な依存症の事です。
嗜癖の恐い点は禁断症状と耐性です。ギャンブル障害の禁断症状は覚醒剤並みに重症で長く続き、ギャンブルをしたくてたまらない衝動、いらいら感、焦燥感、身体症状に長年苦しみます。どんどん強い刺激を求めてゆくのが耐性で10万、20万程度の額では興奮しなくなります。その結果大穴を狙って負け続け、家族や友人に嘘を重ねてあっという間に数百万の借金を背負い、その後は多重債務、自己破産とお決まりのコースをたどります。しかも、不定期に開催される競馬や競艇ではなく、ギャンブル依存の90パーセント以上がパチンコ、スロットであることを考えるとカジノが生む新たな闇を予測しないわけにはいきません。
このような危険性をはらんでいるにも関わらず、何の法的整備も医学的サポート体制もできていないこの国で、何故この法案を急がなければいけないのか。財源確保、観光立国という大義名分だけで突き進んで大丈夫なのか。実に心配な話です。