脳卒中とは突然脳の血管に異常が生じて命を奪ったり、失語症や半身不随などさまざまな後遺症を残す病気の総称です。脳卒中の最大の危険因子は高血圧ですので「高血圧性脳血管障害」とも呼ばれます。現在脳卒中の年間発症患者数は年間29万人。脳卒中が原因で要介護者となった人の割合は要介護者全体の30%を越えて第1位で、後遺症を抱えて不自由な人生を送っている人は非常に多いのです。高血圧はどのように脳卒中に関与し、どの程度まで血圧を下げると脳卒中が防げるのでしょうか。
高血圧が関わる主な脳血管障害
脳出血
別名「高血圧性脳出血」とも言われ、高血圧と非常に強い関連性があります。高血圧を有している人の脳出血発症率は正常者の9~10倍。特に40歳から59歳までの年齢層で拡張期血圧(下の血圧)が高いグループの危険率が高い事がわかっています。
脳梗塞
脳梗塞は3種類に分類されます。
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ラクナ梗塞
脳実質を穿通する細い血管に生じた梗塞で15mm以下の小さな梗塞です。ラクナとは空洞の事で、長年の高血圧が脳深部の血管にリポヒアリノーシスという病的な変化を来たしてこの病気に至ると考えられています。
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アテローム血栓性脳梗塞
脳内の比較的大きな血管が動脈硬化で細くなって脳梗塞を来たしたり、血管の壁にできた血栓の一部が血流よって脳内の遠くの血管に飛んで脳梗塞を作ったりするもので、ラクナ梗塞よりも重症の脳梗塞です。原因はやはり高血圧、そして喫煙、糖尿病、高脂血症などが関与しています。
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心原性脳梗塞
不整脈(心房細動)が原因で起こる最も重症の脳梗塞です。心房細動によって心臓内に作られた血栓が脳に飛んで脳梗塞を来たします。この塞栓を引き起こす原因として高血圧、糖尿病、加齢、冠動脈疾患などが上げられます。
クモ膜下出血
85%から90%が脳動脈瘤の破裂で起こる病気です。高血圧の治療によって脳出血が減少しているにも関わらず、クモ膜下出血はあまり減少していません。年間発症率は人口10万人当たり10人から20人で、発症一カ月以内の死亡率は30%~60%と非常に高い疾患です。脳動脈瘤はほとんどが先天的なものですので、他の病気と異なり高血圧が直接的に関与しているわけではありませんが、高血圧により小さな動脈瘤が破裂しやすい大きな動脈瘤に変化することが知られています。破裂の危険因子としても高血圧、喫煙、飲酒などの関わりが証明されています。
どこまで下げれば脳卒中を予防できる?
多くの研究の結果、脳卒中を防ぐためにどの程度まで血圧を下げればいいのかが分かってきました。脳梗塞は全年齢層で収縮時血圧(上の血圧)が140mmHgを越えると急激に増える。脳出血も同様に140mmHgを越えると急激に増加する。拡張期血圧(上の血圧)が90mmHg越えると脳卒中は急激に増える。この結果をふまえて日本高血圧学会が次の様な基準を作っています。
血圧のコントロールは高齢者では140/90mmHg以下にするのが望ましい。
若年者、中年者では脳出血の可能性も高いので130/85mmHg以下が望ましい。
糖尿病や腎臓病を持っている人はさらに危険なので130/80mmHgにするべきである。
この基準をもとに現在の日本では血圧コントロールが行われています。けれども医療はケースバイケースですので画一的にはいきません。主治医と十分相談しながらオーダーメイドの降圧治療を行っていくことが大切です。