新しい認知症治療薬「レケンビ(レカネマブ)」Q&A

新しい認知症治療薬「レケンビ(レカネマブ)」Q&A

2023年9月25日、アルツハイマー型認知症(AD)の進行を抑制する世界初の治療薬「レケンビ:一般名レカネマブ」が日本でも承認され、12月13日、価格と公的保険適応が発表されました。20余年、この領域の研究は停滞していましたので、これは朗報には違いありません。けれども過大な期待は禁物。いったいどのような薬なのか。QA方式で見ていきましょう。

Q1レカネマブは脳にどのように作用して効果がでるの?

私たちの脳内には「アミロイドベータ」というタンパク質が自然に存在していますが、これが神経細胞の周りに集まり「細胞外沈着物」を作ると脳細胞の働きを阻害します。この凝集物こそがアルツハイマー型認知症の主な原因物質なのです。レカネマブはその凝集物に結合し、それを目印にして免疫細胞がアミロイドベータを退治していくのです。つまり、認知症の原因物質が増加するのを防ぐ役割を担った初めての薬物です。

Q2どのような患者にとってメリットが大きいの?

比較的若い、早期のアルツハイマー型認知症患者にメリットが大きいと考えられます。進行した高齢のアルツハイマー型認知症の方に投与しても効果は期待できません。早期のアルツハイマー型認知症1795人の半数にレカネマブを、半数にプラセボを投与した研究では、レカネマブ投与群では画像検査や血液検査で有意にアミロイドベータの減少が証明されています。また、18か月間の投与後、レカネマブを使用した人たちは、使用しなかった人達に比べて「認知症の進行が27%遅かった」というデータが出ています。ただ、この研究結果はわずか18か月に過ぎませんので、長期の効果はまだ不明です。

Q3これまでの治療薬との違いは?

現在使用されている、ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチンはいずれも生き残って正常に働いている脳細胞の活性を高めていこうとする対症療法的なものです。これらは病気の根本原因に対処するのではありませんので、レカネマブはアルツハイマー型認知症の病因に対処する初めての薬ということになります。

Q4何故、早期のアルツハイマー型認知症に限って使用できるの?

アルツハイマー型認知症は、物忘れが始まった時点が始まりという風に考えがちです。臨床的には事実なのですが、脳の中ではおそらくその15年~20年前からベータアミロイドが脳内に蓄積され始めていると考えられています。ですから、私たちが初期と考えている物忘れの始まりの時期には、すでに脳内では大量のアミロイドが蓄積して炎症をおこし、脳細胞やシナプス(神経細胞同士の結合部分)が減少している状態なのです。一度失われた神経細胞は再生できませんので、ハーバード大学神経学のルドルフ教授は「アルツハイマーの症状が出ている患者の脳内アミロイドを叩いても、症状が改善することはない」と述べています。そのためこの薬は、早期のアルツハイマー型認知症か、その病前状態にあたる「軽度認知障害」に限って、進行を遅らせる目的で使用されることになります。

Q5レカネマブを使うためにはどんな検査が必要?

認知症のレベルを調べる神経心理学的検査はもちろんですが、それ以外に「アミロイドPET」(放射線元素を用いて、脳内にアミロイドが蓄積しているかどうかを調べる)か、髄液検査を行なってアミロイドの量を調べる検査が必要です。いずれも大学病院のような基幹病院でしか行えない検査です。

Q6使用法や副作用は?問題の価格は?

治療を開始しますと、2週間に1度、1時間程度の点滴治療を受けて頂くことになります。開始は大学病院などの基幹病院になると思われますが、安定してきたケースでは、認知症のかかりつけ医で行えるようになると思います。ただ、副作用としてレカネマブ投与群の12.6%に「脳の腫れ」、17.3%に「小さな出血」が確認されていますので、画像上の経過観察が義務付けられています。症状的には頭痛のみで、大きな合併症はみられていません。アメリカでは1年間400万円弱で発売されていますが、日本では年間298万円。ひと月あたり約25万円と定められました。公的保険が適応され、自己負担額上限制度の対象になるため、70歳以上の一般所得層(年収156万~370万円)では年間14万4千円の負担となる見通しです。

Q7費用対効果はあるの?

大きな問題です。日本ではこれから議論されていくと思います。ニューズウィーク誌の最新版によると、アメリカでは、もしこの薬を推定対象数21万人に使うと総費用は年間7600億円となり、米国高齢者公的保険「メディケア」の屋台骨を揺るがす事態となるだろうという事です。新薬が発売されるまでには研究開発費、製造費、営業費など莫大な資金がかかります。「金額に見合う薬の価値の評価」の指標は、一人の人間を1年間健康で長生きさせる医療費が500万円以下とされていますが、レカネマブは3800万円と破格の金額になっており、費用対効果は高いとは言えません。しかし、介護費用など認知症が進行すると多額の費用がかかるため、これをどう評価するかは将来の検討事項になるのではないでしょうか。

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