軽度認知障害(MCI)の診断基準
MCIとは「正常ではないけど認知症でもない状態」で「数年後に認知症に移行する可能性がある状態」を指します。
- 本人や家族から認知機能低下の訴えがある。
- 認知機能は正常とは言えないが認知症の診断基準を満たさない。
- 複雑な日常生活活動に支障はあっても基本的な日常生活機能は正常である。
という3項目が診断に使われていますがなんとも曖昧でわかりにくいですね。元々人間の精神活動や生活能力は数値で表すことが難しいのでこのような表現になるのもやむを得ないのかもしれません。けれどもMCIを早期に発見することは認知症の治療をなるべく早期に開始したい私たち医師にとっても、一日でも長くその人らしい時間を過ごさせてあげたいご家族にとっても意味のあることですので、大まかなイメージを持って早く気づくことが大切です。
軽度認知障害(MCI)の具体的な症状
MCIは健常な老化状態からアルツハイマー型認知症に移行する前段階と考えられます。
- 「昔から知っている物の名前が出てきにくい」(代名詞を使って話す事が増える)
- 「最近の出来事を忘れることがある」(みんなで経験した共通の出来事を一人だけ忘れていることがある、すぐ前のことを忘れていることがある)
- 「雑談ができにくくなった」(最近のニュースやみんなが知っている話題についていけない事がある)
- 「積極性が低下する」(好きな習い事に行くのを嫌がる、理由をつけて休もうとする)
- 「約束を忘れる」(集合の日時を間違える事がある)
- 「料理に時間がかかるようになる」(物事の段取りが悪くなってくる、味に変化がおこる)
など、以前とは違ってきているけれども特に日常生活上特別な支障はないという状態です。画像診断を行なっても海馬の萎縮などはまだ目立ちません。MCIなのか軽度のアルツハイマー型認知症なのか区別できないこともあります。あれ?ちょっと最近変かな?御家族がそう感じた時が受診のタイミングです。
レビー小体型認知症(DLB)に移行するMCI
アルツハイマー型認知症に移行するMCIではなくDLBに移行するMCIもあります。DLBは物忘れが軽度でもレム睡眠行動障害(いやな夢、ひどい寝言:レム睡眠行動障害:本ホームページの別コラムで解説)、幻視、自律神経症状を伴いますので、その前段階から推測することができます。また歩行状態がパーキンソン病のように前屈姿勢になったり、注意不足から転倒が増えるなど家庭や施設の中でも以前とは少し違う状況が見られたら専門医の診察を受ける時期かと思います。
最近の研究から ―脳と脂肪の関係―
「中年期の内臓脂肪の増加は老年期の認知機能低下を起こしやすく、老年期の体重減少も認知症発症に関与している。」これは最近ある一流医学雑誌に掲載された論文で、幼年期から老年期に至る内臓脂肪が認知症に関与しているというユニークな研究です。脂肪細胞からは脳細胞や他の臓器に影響を与えるホルモンなど多彩な物質が分泌されていますので認知機能に大きく関与していることが知られています。認知症になった人の一生涯の内臓脂肪変化を見ると、中年期に肥満傾向にあり、老年期に急に体重減少を来たしたケースに多いと指摘するこの論文は、肥満症、糖尿病など生活習慣病予防の重要性について改めて考えさせられる内容です。