月に何度か仕事や学校を休まなくてはいけないようなつらい頭痛発作に襲われる片頭痛。命に関わることはないものの、生活の質を落とし、日々の生活に大きな支障を生じる病気です。片頭痛発作時には頭痛だけでなく、閃輝暗点と呼ばれるキラキラした視野の障害や、吐気、めまい、光や音や臭いに対する過敏性など自律神経系の多彩な症状が出現しますので、数ある頭痛の中でも最も不快な頭痛のひとつと言えるでしょう。
最近、この片頭痛をくり返していると脳梗塞になりやすい?という研究結果がメディアで紹介されたため、そのような心配で受診される方も時々見受けられます。
2005年にBMJという医学雑誌に掲載された論文(1)では片頭痛患者の脳梗塞発症リスクは、対照群を1とすると、前兆のある片頭痛では2.27 、経口避妊薬服服用者では8.72と高い結果を示しました。また2009年のBMJの論文(2)でも前兆のある片頭痛で2.16、経口避妊薬服用者では7.02、喫煙者では9.03と非常に高い値を示していました。
これらの結果を見ますと片頭痛をくり返していると脳梗塞になりやすいようにもみえますが、専門家の間では必ずしもそうとは言えないという意見も多く見られます。これらの研究では脳梗塞や片頭痛の診断が正確でなかったという意見や、この統計の主な対象であった45歳以下の女性の脳梗塞の発症率がもともと非常に低いため、少し増加しただけで異常値が出やすいという統計学的な問題点も指摘されています。
脳梗塞の絶対的な危険因子としては、高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病、喫煙、過食などの生活習慣がよく知られています。これらの病気が動脈硬化症を引き起こすことが脳梗塞の主因だからです。これらの病気の危険性に比べれば、片頭痛の脳梗塞に与える影響などはるかにはるかに小さく、今の時点では「片頭痛が脳梗塞の危険因子とは言えない」という考えが主流だと思います。片頭痛の患者さんは、そこまでの心配はせずとにかく痛みをとって楽な毎日を過ごせる工夫をしてゆきましょう。
(1)Etominan M, et al :BMJ 2005;330:63
(2)Schurks M,et al:BMJ 2009;339:b3914