今から13年前の2008年に診断基準が定められた比較的新しい病気ですが、最近この病気の認知度が高まっています。もともと「脊髄小脳変性症」という良く知られた病気があるのですが、その病気の中で「非遺伝性」の代表選手が「多系統萎縮症」です。確定診断は大学病院の神経内科で行う事になりますが、当院の外来でも疑われる症例が増えています。この病気の特徴についてまとめてみます。
多系統萎縮症の症状と診断
この病気はまず「小脳症状」で発見されるのが一般的です。小脳症状とは体のバランスが取れない、上手に歩けない、四肢を思うようにうまく動かすことができない、呂律が回らず、発語がスムーズにできないなどの症状です。
次に「パーキンソニズム」という症状がみられます。これはパーキンソン病のような症状で、体の動きが遅くなり、運動量が極端に減ってくる、関節が固くなりスムーズに動かない、手が震える(振戦)、体を支えにくく転倒しやすい、前屈状態などの諸症状です。
さらに「多彩な自律神経症状」も特徴的で、頻尿、尿失禁、起立性低血圧(立ちくらみ)、レム睡眠行動異常(睡眠中に大声を出したり、周りの物を殴ったりする)などが出現しやすくなります。
これらの症状に加えMRIで小脳萎縮や脳幹部の特徴的なサインがみられるとこの病気が強く疑われます。基幹病院ではさらに脳血流シンチや心筋シンチなどを行って確定診断を行います。
多系統萎縮症の原因
根本的な原因は不明です。専門的には小脳や脳幹部の細胞にαシヌクレインという異常物質が蓄積されることが分かっています。この異常物質が、運動や自律神経を司る細胞に蓄積するので多彩な症状を生じるのですが、なぜこのようなことが起こるのかは多くの研究によってもまだ知られていません。
多系統萎縮症の治療
残念ながらこの病気の根本的治療法はまだ確立していません。パーキンソン症状は出現しますが、一般的なパーキンソン病とは違いますのでドーパミン製剤はあまり奏功しません。症状の進行は遺伝性の脊髄小脳変性症よりも早いといわれています。症状に応じたリハビリテーションで身体機能の維持に努めることが最も大切です。
誤嚥や尿路感染症、肺炎なども起こしやすくなり、これらがこの病気の予後を決める大きな要素になります。進行したケースでは難病指定になりますので公的サービスなどを使いながら、運動療法、栄養管理、感染予防に努めて療養していくことになります。