戦火の中、ウクライナ市民が逃げ惑う姿をテレビで見ていた時、急に動悸、呼吸困難、四肢のしびれが出現して動けなくなった。という主訴で28歳の女性が受診されました。以前にも映画中に感情移入をしすぎて同じようなことがあったということで詳しくお話を伺うと、そのベースにはパニック障害があることがわかりました。別のケースを二つ紹介します。
パニック障害の臨床例
博多座のケース
59歳女性。数年前、博多座のお芝居中観劇中に突然動悸がして救急車で運ばれた。新幹線やエレベーター内でも苦しくなることがあり、息苦しさで窒息死するのではないかと非常に恐怖を感じる。不安が募れば募るほど苦しくなる。飛行機には乗れないが、どこででも自由に降りることのできる市内のバスでは症状は出たことはない。
スーパーマーケットのケース
47歳の女性。いつも行っている地元のスーパーマーケットサニーでめまいと動悸がして倒れこんでしまい、医務室で休ませてもらって回復した。ところが次回からは、スーパーに入ろうとしたら入り口で動悸がして足が一歩も前に進まなくなった。その後、スーパーに入ることを想像するだけでも動悸や息切れがするようになった。
パニック障害の症状と原因
以前にも別項で説明していますが、このような症状は「パニック障害」と呼ばれています。この体質を持った方は、精神的なストレスや感情の起伏で誘発されることがよくあります。
この図のようにパニック障害の主な症状は、
- 急激な不安感と自律神経症状(動悸、息切れ、冷感、窒息感)、
- また発作が起こるのではないかという予期不安
- 外出できなくなる広場恐怖(すぐに退去できない場所に入れない)
などですが、今これは「不安神経症」という脳疾患の一つと考えられています。この病気の原因ははっきりわかっていませんが、最近の脳科学研究では大脳辺縁系(不安や恐怖など原始的な感情を司る部位)、青斑核 視床下部(生存上の危険をキャッチすると青斑核はアドレナリンを出して警告し、警告を察知した視床下部が心臓や汗腺などの自律神経に情報を送る)などが関わっていることがわかっています。
パニック障害の対処法
- パニック障害発作の発端は何らかのストレスです、いやなニュースをみたり、満員電車でいやなにおいをかいだり、職場の環境が良くなかったりと様々です。自分がどのようなときに発作を起こしやすいのかを知り、避ける工夫が必要です。
- 次に起こってしまった時、いかに冷静になれるかが大切です。慌てて救急車を呼んでも救急隊が駆け付けた時には収まっていることが大半だからです。「これはパニック発作だ。しばらくすれば収まる。心臓病じゃないので死ぬことはない。」と言いきかせましょう。
- と、同時に、ゆっくりと腹式呼吸をします。小さな呼吸で過呼吸になるとさらに苦しいので、大きな大きな呼吸をするように努めます。
- 診断がついている人は、主治医から処方されている即効性の精神安定剤をすぐに内服しましょう。大変有効です。
- 根本的な治療は専門医で行いますが、ご家族の協力が大切です。電車に一緒に乗ってあげる。苦しくなったらいつでも一緒に降りてあげる。入れないスーパーの入り口まで行って引き返す。徐々に一緒に店内に入れるようにしてあげる、などのサポートは認知行動療法といわれます。この病気は協力者がいる事で治療が順調に進むことが多いのです。