いやな夢、ひどい寝言、そして暴力。「レム睡眠行動障害」とは?
「他人と言い争ったりけんかをする夢をいつも見ます。ひどいときは殴り合いをしています。隣に寝ている妻を殴ったこともあるようです。朝起きると壁に穴が開いていて拳に怪我をしていた事もありました。」このような症状で受診される患者さんがおられます。たかが夢の話と言っても御本人やご家族にとっては毎日の事ですので切実です。ある御夫婦は夢の話くらいで病院を受診するのは…と躊躇していたのですがたまたま雑誌でこの病気が紹介されているのを見て受診されました。
これは睡眠障害のひとつで「レム睡眠行動障害」という病気です。睡眠にはレム期とノンレム期がありそれらは交互にやってきます。全睡眠時間の25%くらいを占めているレム期の間、私たちは活発に夢を見ています。レム期の脳は活発に働いていて眼球もきょろきょろと動いています。レム期に脳の中からあれこれと記憶が呼び出されてそれが勝手に構成されたものが夢だと考えられています。レム期はまた肉体を休ませるための時間でもありますので、脳とは逆に身体の筋肉は完全に弛緩し力の入らない状態になっています。金縛りを経験した方も多いと思います。部屋に誰かが入って来て近づいてくるのに声が出ず身体もピクリとも動かず怖い思いをした、その金縛りこそレム期に見た夢と脱力弛緩した筋肉の産物なのです。
ところが「レム睡眠行動障害」ではレム期にもかかわらず何らかの異常で筋肉の抑制機構が働かなくなってしまい、夢の中での行動がそのまま異常行動となって出てしまいます。夢の内容は口論やけんか、追いかけたり追いかけられたり殴り合いなどの不快なものが多く、大きな寝言や叫び声をあげたりします。実際に壁を殴ったり蹴ったりして家具を壊すこともあります。そばで寝ている家族が暴力の被害にあう事もあるのです。
レム睡眠期はノンレム睡眠期と違い眠りの浅い時間帯ですからその時に声をかければ容易に起きますしその夢の内容を話すこともできます。しかし頻度が増えて生活上の諸問題が生じるようならば治療の対象になります。
この病気に使われるお薬は一般名クロナゼパム(薬剤名リボトリール、ランドセン)というお薬です。これはもともと抗てんかん薬ですので高齢者では眠気などが出やすく使用量には注意が必要ですが、レム睡眠行動障害には非常に有効なお薬です。内服を続けていくと夢が明るい内容に変化し、異常行動が消失していきます。アルコールやストレスはこの病気の増悪因子ですのでお薬の前に生活環境を整えることも大切です。