頭痛外来には、脳の中に異常がない頭痛(一次性頭痛)をいかにして治療するかという役割と、脳の中に異常がある頭痛(二次性頭痛)をいかに発見するかという役割があります。多くの患者さんは片頭痛や緊張型頭痛、後頭神経痛などの一次性頭痛と診断されその治療を行なうことになりますが、二次性頭痛は命に関わりますのでそれを見逃すことはできません。特に雷が落ちたように突然起こる超急性発症の頭痛は「雷鳴頭痛」と呼ばれ、脳外科的緊急手術が必要なケースがほとんどです。代表的な4つの病態を紹介します。
くも膜下出血
雷鳴頭痛の代表がくも膜下出血です。これは脳動脈瘤が破裂しておこる病気で雷鳴頭痛の4分の1を占めるともいわれています。突然、今までに経験した事のない殴られたような激しい頭痛に襲われ、意識を失ったり、嘔吐する症状が代表的です。けれども突然の頭痛であっても激烈ではなく意識もはっきりあり歩いて外来を訪れるというケースも稀にあります。そのような場合はCT等の画像診断を行なわなければ診断はつきません。また軽いくも膜下出血は1週間以上経過すると血液が洗い流されてしまいCTでも診断がつかなくなりますので、すぐに脳外科を受診する事が肝要です。発症当日に検査を行なえばほぼ100%診断がつく病気です。
脳動脈解離
一般にはなじみの薄い病気ですが、脳動脈の壁が突然解離してくも膜下出血や脳梗塞をきたす病気です。脳動脈の中では椎骨動脈に約8割が起こるとされています。脳血管の壁は外膜、中膜、内弾性板という三層でできていますが、このうち内弾性板に亀裂が生じて血液が中膜に流入して膨らみ、やがて破裂してくも膜下出血を来たすのです。若年者にも多い病気ですので、後頭神経痛と呼ばれる後頭部の強い頭痛や拍動性の頭痛が突然起こったケースを見た時、頭痛外来では常に鑑別にあがる病気です。
脳出血
脳実質内に出血を起こす脳出血の原因の大半は高血圧です。脳出血の50%以上で頭痛を起こします。頭蓋骨に囲まれたスペースが狭い小脳出血では特に頭痛や吐き気が強く、くも膜下出血と区別がつきにくい事もあります。一日のうち血圧が最も高くなる時間帯(午前10時~12時)に突然発症することが多く、急性期には血圧が200以上に上昇している事も稀ではありません。症状は出血部位によって異なりますが、大脳の出血では急激に起こる強い麻痺、脳幹部の出血では急速に進行する意識レベルの低下が特徴的です。
下垂体卒中
これもまた一般にはあまりなじみのない病気です。脳下垂体はちょうど眼の奥のあたりにある小さな構造物でホルモンの中枢です。卵巣から分泌される女性ホルモンや甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモンなど色々な内分泌をコントロールしています。ここに発生する良性の腫瘍を下垂体腫瘍といいます。この下垂体腫瘍が拡大していく過程で腫瘍の中に急激に出血が起こり、突然の激しい頭痛や嘔吐、視野障害などをきたすことがあり、下垂体卒中と呼ばれています。診断、処置が遅れますと重篤な視力障害を来たしますのでただちに血腫除去を行なう必要がある緊急の病態です。