「むちうち」とは
交通事故、転倒、労働災害、スポーツ災害、けんか、不適切な整体やカイロプラクティックなどで首や頭に衝撃が加わって起こる様々な不快な症状は、昔から「むちうち」と呼ばれてきました。この用語は、交通事故の衝撃の瞬間に首がムチのようにしなる情景をイメージしやすいので一般に定着したのだろうと思います。けれども発症の原因は様々ですので、最近は「外傷性頚部症候群」と呼ばれることが多くなってきました。
症状の特徴
症状は頭痛、頭重感、後頭部痛、頚部痛、腕のしびれ感、脱力感、吐気、めまい、耳鳴り、物が見えにくい感じなど大変バラエティに富んでいます。これらの症状がすんなりと消えず長引く場合は、不快で不安な毎日を強いられることになります。
けれども外傷性頚部症候群のこれらの症状は、脳や脊髄に損傷が加わって起こったわけではありません。背中から首、頭部にかけての「筋肉の捻挫」が主原因ですので、CTやMRIなどの画像診断を何度行っても異常は見つかりません。頚部の筋肉の中には多くの機能に関わる自律神経が走行しているため、症状も多岐に及ぶことになるのです。
治療方針
急性期には頚部カラーなどで局所の安静に努める事が大切で、マッサージなどの刺激は避けた方がいいでしょう。頚部カラーによる安静があまり長引くと頭部を支える筋力が落ちてしまい治癒が遅れますので、2週目からは温熱療法など血行を改善する治療に徐々に切り替えてゆくと良いでしょう。お薬は「筋弛緩剤」、「鎮痛剤」などを服用する事になりますが、あまり長く続けると依存してしまうので、徐々にその量を減らしてゆく方がいいと思います。
気持ちの持ち方
最後に、気持ちの持ち方が治癒に大きく関わります。私たち人間は痛みにとても弱い生き物です。症状が長引くにつれて心も弱くなり「なぜ、自分だけがこんなメにあわなくてはいけなかったのか」「誰がこんなメにあわせたのか」「このまま良くならないのではないか」という不安や相手に対する苦い感情が湧いてくるのも仕方がありません。しかし悲観的な気持ちや他罰的な心情はあまり前向きとは言えません。治癒を遅らせる感情と言ってもいいでしょう。
時計の針を後戻りさせる事はできないのです。「必ず回復する」、「ある程度の症状とは折り合いをつけながら早く元の生活に戻っていこう」とする気持ちの強さもまたこの状況を乗り切っていくために大切なことなのです。昨日のことより明日のことへ。